東大法学部 灘中学・高校

 村上世彰(よしあき)氏率いる投資ファンド(通称・村上ファンド)が阪神電鉄株を大量取得した問題で、11日行われた村上氏と西川恭爾・阪神電鉄社長とのトップ会談は、阪神タイガース上場案の話し合いに大半の時間を割いた。村上氏は終了後、「上場は1〜2年では無理」と長期的な視野で対応する考えを強調し、あくまで企業価値を上げる選択肢の一つとの柔軟な姿勢を見せた。ただ、村上氏側の最終的な狙いは、阪神電鉄の株価を引き上げた後、株を売って利益を上げることとみられ、ファンにとってヤキモキする状況が続きそうだ。
 ◆ファン投票案を提示
 この日の会談で村上ファンド側はA4判10枚程度の提案書を示し、これを説明する形で議論が進み、タイガースの公式ファンクラブ会員約15万人に上場の賛否を問う案を提示した。ファンへのアンケートにインターネットを活用する考えも明らかにしたという。投票の結果、3分の1の反対があれば上場提案を撤回してもかまわないと、上場には固執しない考えも打ち出した。
 村上氏側にとって球団上場案は、ファンや株主の支持を得る「一つの選択肢」との位置付けだが、資金回収原資の一部でもある。阪神電鉄株の取得には約1000億円を投資しているだけに、慎重にことを進めたい意図がうかがえる。
 持ち株会社「タイガースホールディングス」を設立して上場し、球団株式を全株保有する方式も披露した。ただ、持ち株会社案は、球団そのものが上場する場合と大きな違いはない。野球協約上の問題発生を回避するための方便と受け止められ、球界から反発も出そうだ。
 ◆友好ムード演出
 会見で村上氏は「投資家にとって、こんないい会社はない」と阪神電鉄をほめちぎった。昨年、西武鉄道有価証券報告書虚偽記載が問題になったころから阪神電鉄を研究していたと言い、「電鉄は毎年一定の収益が上がる。タイガースだけでなく、流通も不動産もトータルで魅力」と投資した理由を説明した。
 村上氏側の一番の狙いは、阪神電鉄が持つ不動産の有効利用や証券化などにより、株価を引き上げることだ。村上氏は会談終了後、約230人の報道陣を前に「タイガースファンや関係者らに心配をかけ、おわび申し上げます」と切り出し、「今、阪神側と対立軸はない」とも付け加えた。友好ムードも演出しながら、何らかの対応をさせる考えとみられる。
 ◆阪神は上場反対も、終始受け身に
 阪神電鉄は、この日の会談でも受け身の姿勢に終始した。球団上場について西川社長は、ファンの同意が得られれば検討すると歩み寄る発言もしたものの、基本的には「上場には反対」の立場を崩さなかった。
 村上氏から「もっと電鉄の価値を上げる方法を考えてほしい」と注文を付けられ、阪神側は、不動産の有効活用などの検討を迫られそうだ。ただ、西川氏は会見で、「企業価値向上策の具体的な提案はなかった」「改めて個々の話を頂けるのではないかと思っている」と村上氏側からの提案を待つ構えだ。
 村上氏はこの日、「ネット系の経営者を紹介するので、トータルとして利益を生むならどんどんやってほしい」とし、阪神の業績向上に向け、ネット企業との提携も提案することを明らかにしている。交渉の主導権は、今後も村上氏が握ることになりそうだ。
 ◇「モノ言う株主」か、「時代のあだ花」か
 村上ファンドは、元通産官僚の村上世彰氏が率いる投資ファンドの俗称。運用金額は非公表だが、数千億円規模と言われ、証券業界では「年間30%の利益を上げたこともある」とされる。ファンドの中心は株式会社「M&Aコンサルティング」と阪神電鉄株を買い集めた同「MACアセットマネジメント」の2社で、ほかにも複数の投資組合がある。
 83年に通産省(現経済産業省)に入り、99年に退官して翌00年にファンドを設立した。同年に不動産業「昭栄」に対し日本初の敵対的TOB(株式の公開買い付け)を実施した。その後も西武鉄道大阪証券取引所などの株主になり、経営者に配当増などの要求をつきつけた。ライブドアによるニッポン放送株買収問題でも、当事者の一人として名をはせた。
 村上氏は投資ファンドを始めた動機として、官僚時代に会った企業経営者の多くが株主を軽視していたことを挙げる。3月に東京都内で開いた講演会では「クズみたいな経営者がたくさんいるんです」と発言した。攻撃的な姿勢が「モノ言う株主」として経営者を恐れさせる。村上氏と親しいある上場企業トップは半ば冗談で「合法的な総会屋」と呼ぶが、本人は自ら「時代のあだ花」と評す。
 村上氏と株の付き合いは小学生時代にさかのぼる。父親から100万円を渡され、以後は小遣いをやらないと通告されたのがきっかけ。会社四季報を片手に株を研究してきたという。ファンドを創業した仲間は東大法学部時代の友人。出身校の灘中学・高校の同窓生のつながりで人脈も広い。
 阪神タイガースファンで、灘中・高校への通学には阪神電鉄を利用した。当時、沿線にある甲子園を「1日2回は必ず見た」と話し、チームへの愛着も強調している。
毎日新聞