偶発を必然に変える力が大事

さて、この偶発性をキャリアづくりと結び付け、論を展開した人がいる。米スタンフォード大学のクランボルツ教授がその人だ。氏は偶発の出来事こそキャリア形成に不可欠なものであると提唱し、「プランド・ハップンスタンス理論」(Planned Happenstance Theory:計画された偶発性理論)の名で世の中に紹介した。つまり、キャリアは100%自分の意のままにコントロールできようものではなく、人生の中で偶然に起こる予期せぬさまざまな出来事によって決定されている事実がある。むしろ大事なことは、その偶発的な出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、チャンスに変えること、また、偶発的な出来事を意図的に生み出すように積極的に行動することだという論旨だ。氏によると、そのために、各人は好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心を持つことが大切だという。

ただ、ここで留意すべきは、JAZZにおいて、演奏技術の未熟な者が偶発に身を投じるアドリブをやると、聴くに耐えない演奏になってしまうのと同様、キャリアにおいても、プロフェッショナルとしての基本的なスキルや経験をある程度積んでいないと、偶発性に賭けるキャリア行動はリスクが大きくなることだ。自分の能力にある程度、自信があり、キャリア意思がおおまかにでも固まっていれば、行き当たりばったりでキャリアのアドリブにチャンレンジしてみるのも、進路選択のひとつと考えていいだろう。科学者、パスツールの言葉には、“チャンスは、心構えした者のもとへ訪れる”(Chance favors the prepared mind.)というのもある。