数学は体力だ(ヴェイユの言葉)

一般に世間では数学者というと,青白い顔をして,やせ細った弱々しい体で,頭脳ばかりを使っているというイメージをもつ人が多いようです。特に日本ではその傾向があるようですが,私が外国で会った一流の数学者たちは,みな相当な体力の持ち主ばかりでした。

かつてアメリカのプリンストン高等学術研究所に滞在中,今は亡き久賀道郎先生は,私に「数学は体力だよ」と言って次のような話をして下さいました。

1955年の秋に日光で代数的整数論の国際シンポジウムが開かれたとき,久賀先生たちは来日したヴェイユシモーヌ・ヴェイユの兄で日本の数学に多大な影響を与えた大数学者,当時50才)やセ一ル(26才で小平邦彦先生と共にフィールズ賞を受賞。当時30才位)を中禅寺湖へ案内した。ところがヴェイユは裸になって湖に飛び込み,泳ぎ出した。セールもそのあとに続いた。負けてなるかと何人かの日本人数学者たちも続いて飛び込んたが,余りの水の冷たさに驚いてすぐ上がってしまった。やがて湖から上がってきたヴェイユとセールは今度は走り出した。日本人数学者たちは「陸の上なら我々も出来る」とばかり,二人のあとに続いて走り出したが,すぐ息切れして走れなくなってしまった。そのうちヴェイユが戻ってきて休んでいる久賀先生を見て二ヤッと笑って「数学は体力だ」と,言ったというのです。